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スタジオジブリ

随筆:スタジオジブリについて

のジブリ作品の体験は小学生の頃にさかのぼる。

日本テレビの金曜ロードショーで放送された「天空の城ラピュタ」を見たのが最初だ。

当時はノーカット放送ではなく、テレビの限られた時間枠に収まるよう、幾つかの場面をカットした短縮版で放送された。それでも話の大筋は削がれない程度の編集で、私は映画を堪能した。

本編放送の最後に、この夏公開予定の映画として「魔女の宅急便」の予告編が紹介された。親にせがんで劇場まで観に連れて行ってもらった。


「魔女宅」を楽しむために足を運んだのは、渋谷の映画館だった。渋谷東急。数階建てのビルのテナントだったと思う。上映時間まで60分ほど空きがあったので近くの広い書店で時間をつぶした。冷房がよく効いていた。

当時はバブル景気の絶頂で、エコロジー(エコという2文字単語の表現はまだなかった)だの地球に優しい環境をだのが巷で叫ばれていたが、都内の巨大書店に並ぶ圧倒的な書籍の量を見て、「これだけ紙があるんじゃ、再生紙活動なんて個人レベルでやっても無駄だな。そりゃ森林を伐採して、樹木も足りなくなる訳だわ」と子供心に思った。店内で当時ベストセラーだった「究極の選択」が平積みで置かれていた。また、「魔女宅」の隣に併設された別の劇場ではアメリカ映画のツインズが公開されていて、当時子供だった私の背丈より大きい、主演二人の等身大ポスターがあったのを覚えている。ロビーは廊下が広かったのに、それでも次回上映の列に私が改めて並び始めた時、人ごみが凄かった。

いずれも、小さな子供の視点で見ただけのかなり昔の記憶だ。ひょっとしたら見に行った時、本当は割と空いていたのかもしれない。それでも、渋谷で鑑賞したのが劇場でジブリ作品を観た人生初の出来事だったことは、おそらく間違いない。

今でも渋谷と聞くと、若者の街、ハチ公、109、NHK、アップルストアに負けないぐらい、ジブリ映画を見た場所という記憶がイメージの筆頭に挙がる。

スタジオジブリ、その圧倒的なブランド。

「スタジオジブリ」、「宮崎駿監督」。それらのキーワードは娯楽関連のニュースとして不意に現れる。その度に、砂漠の中のオアシスのような潤いの感覚を得るのは私だけではないだろう。

ニュースで報じられる理由は、新作の劇場公開、新たなコレクション(DVDあるいはBlu-rayだろうか)の販売、テレビ放送と様々だが、やはりテレビ放送告知の時が最も多い。

提携している都合上、ジブリ映画の本編がテレビで公開されるのは、今も昔も日本テレビに限られる。「これで何度目の放送だ?」と巷でいわれる作品も珍しくない。それでも放送されると、どんな時でも安定した高視聴率を叩き出すので、日本テレビにおいては確かなブランドであり、確かなドル箱ソフトの1つだろう。スタジオジブリで初期にあたる「天空の城ラピュタ」、あるいは「風の谷のナウシカ」は、「これで何度目の放送だ?」の部類に間違いなく入る。何度も鑑賞したために印象的な場面のセリフは、細やかな間合いや声の強弱も含めて、一言一句を完璧に覚えてしまった人もきっと少なくない。

スタジオジブリ公式ページの年表を見る限り、「天空の城ラピュタ」を一作目として数えたとしても、2013年現在ですでに15を越える作品を発表している。

最近のスタジオジブリの方向性。

ジブリの特徴としては、アニメーション作品でありながら、声の出演が著名人や話題性のあるタレントに専ら限られていて、プロの声優が登場しないことだ。

新作映画発表の度に、起用された顔ぶれが報じられると「話題作りのための有名人起用はいい加減にやめて」とインターネット上で多数の意見がのぼる。

しかし、ジブリ映画でプロの声優でない人を起用するのは最近の話ではない。「ラピュタ」のムスカ大佐、空賊の女ボスのドーラ、「火垂るの墓」の主役ふたり、それらはいずれも本職が声優でない面々だが、役の演技としてもイメージとしても最高の仕事をしている。「ハウルの動く城」では、物語の都合での18才の小娘と90歳の老婆とのひとり二役を倍賞千恵子さんがひとりで演じているが、少なくとも私は見ていて違和感を全く覚えなかった。極端な年齢差をひとりの役者が自然に演じ分けるのは、声優の世界でもかなり限られた人にしかできないのではないか。スタジオジブリ作品ともなれば、知名度も注目度も制作スタッフの数も予算も、他のアニメーション映画とは段違いなので、話題作りのための有名人起用も、観る側に違和感を与えないならば問題はさほどないと思う。ただし、のっけから声優を閉め出すのではなく、公開オーディションをするなどとして、声優も選考対象にすべきだとも思う。

例えば「となりのトトロ」。サツキとメイがはしゃぐ姿、日常の姿、号泣する姿は、アニメの中でどんな声の表情をすればキャラが最大限に活用されるかを考え抜いた、本職の声優でないとできない職人芸を感じる。一方で、アニメの世界から離れていなければ出せない役者世界ならではの演技の表情もあるはずで、その意味では、作品の雰囲気やキャラに似合う役者を平等に選ぶという意味でのバランス感覚を求めたい。

ジブリ作品の力強さ。

私個人の意見ながら、ジブリ作品は、あらすじだけを整理すると、何が面白いのか分からない作品も多い。

「ナウシカ」「ラピュタ」あたりは、いかにも痛快な冒険活劇、先の読めない展開、哀切や余韻のある結末だったりと、娯楽(エンターテイメント)の手本とでもいうべき感じがする。一方で「トトロ」や「魔女宅」は、あらすじそのものは冒険でもなんでもない。「トトロ」はテレビがない昭和の時代の東京の片田舎の子供たちの他愛ない物語で、「魔女宅」は思春期を迎えた田舎の小さな魔女が古いしきたりに従って黒猫を引き連れて黒の地味な服を着て遠い旅に出て魔女修行を積んでいく。それだけの話だ。それでもジブリの演出にかかると、ワクワクと心躍る名作映画に変貌する。ジブリならではの映像感覚や、久石譲さんによる繊細で緻密で美しい音楽の相乗効果も大きいだろう。

しかし、たとえば「耳をすませば」は、日本の典型的な学生の日常を描いた物語にすぎず、宮崎ブランドもなく久石ブランドもない作品だ。ファンタジー色ある演出をカットすれば、実写作品(たとえば番組改編期のテレビのスペシャルドラマにするとか)にしてもおそらく違和感はない。それでもテレビ放送の度に評価を得る作品のひとつであり、それはつまりスタジオジブリというアニメーションスタジオが、一大ブランドの大家と化した巨匠らに頼らずとも結果を残したことを、一応は証明した。

ただし私はひねくれていて、「耳すま」も、「真面目そうな両親から生まれた女の子で名前が しずく だなんて、当時では(いや今も?)ありえない」と真っ先に思ってしまう。よく言われる「トトロのその後を描いた作品があったら」というもしも話で「しっかり者のサツキちゃんはお医者さんになってそう」という意見にも私は首を傾げる。「サツキみたいな子に限って、高校や短大を卒業したら幼なじみと早々に結婚して子供を産んで専業主婦で幸せな家庭を築きそう。メイちゃんみたいな甘えん坊の子ほど、姉御肌で後輩から慕われ高度経済成長の日本を女性官僚として霞ヶ関で支えながら奮闘をし、カンタみたいな一見いたずら坊主にみえて根は優しいがきんちょほど、父親の跡を継いで大病院の院長になって幼なじみの賢くて優しい女の子と早々に結婚したりするものだ」と思う。

「その後を描いた作品があったら」、。私はそれこそ、ナウシカの続編を見てみたい。映画は宮崎氏が雑誌に連載していた同名漫画の序盤あたりまでの映像化に過ぎず、映画では明かされずに終わったままの様々な概念や登場人物の深い謎が、漫画では明かされている。「生きねば……」というナウシカの言葉で終わる結末は今も語り草にされている。資金も技術も 1984 年の公開当時より遥かに潤沢な現在のジブリで、どう表現されるかを見てみたい。

ジブリを語るとき。……時には昔の話を?

空を飛ぶ(天空に浮かぶ城を神の視点から眺める、かわいい妖怪にしがみついて風になって叫ぶ、ホウキに乗って空を飛ぶ、ヨーロッパの用水路の中を、整備されて間もない飛行機が空を目指して飛んでいく、など)場面や、緻密で大胆なアクロバットの連続、それらアニメーションでなければ到底不可能な映像を画面一杯に展開する。しかもそこには芸術性や普遍性や道徳性があり、25年後、50年後の時代の人々にも、おそらくは評価される。

スタジオジブリの映画ファンは珍しくなく、すでにブランドは一般に認知されている。諸外国ならまだしも、日本でアニメファンやアニメオタクを自称する人が「よく見る映画はスタジオジブリの映画です」なんて真顔で言ったら白けるだけだろう。あるいはよほどマニアックな論争や深読みをするのではと思われるかもしれない。

いちいち確認しようとは思わないが、「このジブリ映画が好きです」と具体的な作品を紹介して思いを述べている個人レベルのブログなんて、日本では掃いて捨てるほどありそうであり、海外でも探せば幾らでも見つかりそうだ(私が見た中では「火垂るの墓」における海外の反応はどれも興味深い)。

なので私はこのページでジブリについて語ると決めた時、他人にできない私独自の視点として、敢えて、自らの原体験である渋谷での想い出話を冒頭に語った。そう、「魔女宅」は、日本テレビでしつこく放送されているだけではない、バブルの頃に劇場公開されたという事実もあるのだ。

劇場公開当時のリアルな空気の手がかりとして、読んで非常に興味深かったのが、スタジオジブリ作品関連資料集だ。映画の企画が発案された時から制作スケジュール、広報チラシ、前売りチケット、当時のパンフレットその他がてんこ盛りで、金曜ロードショーの放送や商品用ディスクでは決して分からない、公開当時の雰囲気が伝わる。「これで何度目の放送だ?」と思うほど、話の内容がすでに頭に入っている人なら、多少の舞台裏を今更知ったとして、イメージが崩れることもないだろう。違う角度から映画作品を楽しむ方法として、私は勧めたい。

最後に、ささやかな話題として。

風の谷のナウシカは、実は、スタジオジブリ制作作品ではない。天空の城ラピュタがスタジオジブリ制作の第1作である。経緯を探ると、トップクラフトというアニメーション制作会社に絡んだひとつの歴史が浮かび上がる。

細かい事にこだわる熱狂的ファンが、知った顔をして「ナウシカは、本当はジブリの作品じゃないんだよね」と言ったら、相手のプライドを尊重して、敢えてトップクラフトの名前は出さずに、「詳しいですね」「そうらしいですね。厳密には違うって、どこかで聞いたことがあります」などと適当にお茶を濁すことを勧める。

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スタジオジブリ
FOCUS ON THE STUDIO GHIBLI
公開:2021年06月15日
更新:2023年07月12日