バーテンダー
優しい止まり木
『バーテンダー』は、城アラキ原作、長友健篩作画による漫画である。漫画雑誌スーパージャンプに掲載された。集英社から単行本全21巻が刊行されている。
若き天才バーテンダー佐々倉溜を主人公とした、バーを舞台にした読み物である。カクテルだのワインだのと様々な飲料の蘊蓄や歴史を披露しながら、訪れる客の悩みや悲しみや過去を癒していく。基本的には一話完結形式だが、数回に渡って話が続く場合もある。また物語の中で時間が進行しており、それにつれて主人公の勤めるバーも変わっていく。
彼がパリから帰国し、銀座のバー「ラパン」で働き始めるところから物語は始まる。彼の遍歴は話が進むとともに徐々に明らかにされていく。永田町の妖怪と恐れられた政治家を父に持ち、一流私立大学受験に合格するも入学はせず。バー「風」で修行を積み、後に渡仏。ヨーロッパ食品協会主催のカクテルコンテストで優勝をし、アジア人として初めて各国VIPにカクテルをサービスする実績を持つ。パリのラッツホテルのバーでチーフ・バーテンダーを務めたキャリアを持ち、「神のグラス」と呼ばれる。なお「神のグラス」という単語自体は、初期から頻繁に登場する。
インターネットで一般の方の書評をみると概ね好評だが、大手掲示板の2ちゃんねるにて「カクテル版美味しんぼ」という表現がされていて、ひどい言い方だけど的を射ていると思った事がある。似ている部分も確かに多い。本作では第一話からして、ウィスキーの水割りを提供するアクションを通じてバーテンダーの何たるかを説明する場面があるが、美味しんぼの第一話も「豆腐と水」という原始的な食材を通じて食の何たるかを説明する場面がある。そして「究極のメニュー」と「神のグラス」。まあ、どちらも漫画だから、といわれればそれまでの話。
バーを舞台にアルコールをまぜた飲料をアイテムに語る、それだけでよくこれだけ話が持つものだと感心する。その一方、登場する客のエピソードが暗くて深かったり、酒によって救われたり癒されたり希望を見いだしたりする様は、作り話でありながらよく出来ていると感心させられる。一方で前述の「神のグラス」という呼び名みたいに漫画的な部分も散見する。例えば初期に登場する「ブラック・ベルベット」。ビールとシャンパンを1:1で割ったレシピのカクテルだが、作中で彼はこれを左右にそれぞれのボトルを持ち、ひとつのグラスが一杯になるまで同時に注ぐ。たった3秒で。話の中では「日本で五本の指に入る技を持つバーテンダーなら(できる)」みたいな事が書かれていたが、絶対に無理だと思う。バーの客である大学教授が流体力学の基本式を持ち出してまで「できるわけがない」と言い張るが、私がその場にいたらやはりそちらに同調する。
他にも主人公は技も知識もあらゆる芸術作品への造詣も、とても彼の年齢で身に付けたとは思えないほど素晴らしく深く、その辺りも漫画っぽい。しかしながら、それを補ってあまりある、優れた数々のストーリーテリングがあり、何より大人のアイテムである「バー」や「カクテル」や「バーテンダー」を使って全てが紡がれているので、大人の鑑賞に堪えうる漫画である
主人公が語るバーテンダー像、プロの在り方は、サービス業の人間であれば共感できる部分も多いはずだ。その意味でこの漫画は、お客様に満足を与えるにはどうすればいいか、という基本を教えてくれる教科書でもある。
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- バーテンダー
- BARTENDER
- 公開:2021年12月08日
- 更新:2022年08月26日
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