ホットロード
こんなに誰か大事なんて思ったことないよ
『ホットロード』は、紡木たくによる漫画である。別冊マーガレットに1986年1月から翌年5月まで連載された。集英社から単行本全4巻、漫画文庫全2巻などが刊行されている。2014年には能年玲奈主演で実写映画化された。
宮市和希は、母と二人暮らしの中学生の少女。母は離婚調停中の男性と交際している。母と意志の疎通も図ることが出来ず、家に居場所を見つけられない彼女は、ふとしたきっかけで暴走族の少年、春山浩志と出会い、不良少女となっていく。
物語は、和希が友達と万引きを働き、それが店の従業員に発覚して一騒動起こる場面から始まる。
作者の紡木は、1964年8月2日神奈川県生まれの女性。デビューは1982年「待ち人」で、彼女が17歳の時となる。「ホットロード」を執筆するまでに10以上の作品を発表していた。
登場人物の髪型や服装や何気ない言葉の言い回しなど、随所に1980年代の雰囲気が散りばめられている。たとえば作中の女の子は聖子ちゃんカットをしている。が、たぶん現代の10代が読んでも共感出来る場面は多いと思う。
いかにも少女漫画らしい柔らかな線で、人物も風景も描かれる。コマ割りはかなり崩れがちで、一歩間違えば手抜きとも受けとれかねないほどだが、よくよく見ると、柔らかいデッサンの線とも相まって、それが作者の手法だと気付く。
内容はリアルそのものであり、暴走族の経験のない人が見ても生々しく感じるだろう。和希が悪友に勧められて髪を染めたり、春山の女である和希を姉のように慕う子分の男の前歯がシンナーの吸い過ぎで一部溶けていたりなど、細かい挿話を取ってみても、それぞれが危険な若さで満ちている。
のちに春山は自分が所属する族の総統になり、対立する族を相手に乱闘を繰り広げることになる。少年少女という彼らの年齢を考えるとハードな内容が描かれるが、前述した作者の柔らかな筆致やコマ割りが、見事にそれらを救い、透明感のある仕上がりとなっている。1980年代の若者群像劇と括ってしまえばそれまでだが、単なる暴走族漫画になっていない。少なくとも私はそう思う。
私が初めて読んだのは高校生の時。書店でたまたま文庫本を見つけた。藍色のきれいな装丁で上下巻だった。特に深い考えもなく買ってしまったのだが、あの時の偶然に今も感謝している。
1980年代を描いた名作のひとつだと、私は思う。
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- ホットロード
- HOT ROAD
- 公開:2021年12月21日
- 更新:2022年08月26日
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