サンタクロースっているんでしょうか?
感銘深い、心の本
『サンタクロースっているんでしょうか?』は、中村妙子翻訳、東逸子挿絵による絵本である。偕成社から1977年12月に初版が刊行された。
米国の新聞に掲載された社説を基にしている。
当時8才の少女バージニア・オハンロンが、アメリカのニューヨーク・サン新聞に手紙を宛てた。
きしゃさま
あたしは、八つです。
あたしの友だちに「サンタクロースなんていないんだ。」っていっている子がいます。
パパにきいてみたら、「サンしんぶんに、といあわせてごらん。しんぶんしゃで、サンタクロースがいるというなら、そりゃもう、たしかにいるんだろうよ。」と、いいました。
ですから、おねがいです。おしえてください。サンタクロースって、ほんとうに、いるんでしょうか?
これを受けたニューヨーク・サン新聞の編集長は、同社の記者フランシス・P・チャーチに、返事を社説で書いてみないかと持ちかけ、できあがったものが1897年9月21日に掲載された。現在では古典のように扱われ、アメリカではクリスマスの時期が近づくと、あちこちの新聞や雑誌に繰り返し掲載される。そのエピソードを、絵本さながらの演出で紹介したのが本書である。
何度かの改訂や増刷を重ね、2017年10月現在で121刷に達している。クリスマスやサンタクロースを題材に扱った中でも、特に有名な本である。
子どもの質問に こたえて
社説において、チャーチ氏は、
サンタクロースなんていないんだという、あなたのお友だちは、まちがっています
サンタクロースもたしかにいるのです。
と明言している。
原文が素晴らしいのか、翻訳者の表現が優れているのか、それを説明する展開や表現が実に見事であり、魔法のような読後感を味わえる。
存在しないことの証明は、論理学的に不可能である。その考え方を「サンタクロースがいる」という説明に応用したわけだが、8才の女の子相手に、夢を壊さず、少ない言葉数で、それなりの説得力で説明を遂げたチャーチ氏の表現、ユーモア、センス、知性、感性にはまさに脱帽である。
なおこの社説が新聞に掲載されたのは、前述のとおり9月である。クリスマスにまつわるこんな優れた内容なのに、12月ではないのが惜しい気もするが、なにせ実話なので、そこまで日付のタイミングが完璧でないのは仕方がないのだろう。
アメリカだから、できること?
子供から寄せられた「サンタクロースっているんでしょうか?」という質問を、大手新聞社が社説で正式に回答するのは、日本では考えられない。100年前も、今も、そしてこれからもきっと。新聞社でなくとも、雑誌でもテレビでも、その他あらゆる媒体でも、質問を受理すること自体が基本的にない。なぜなら、大人が聞いても子供が聞いてもそれなりに納得できて、夢を壊さず、現実から目をそらさず、それでいて嘘もつかない、そんな回答がほとんど不可能に近い質問のひとつだからだ。
今から100年以上前に、この社説が掲載された時も大反響を呼んだというから、当時のアメリカでもかなり画期的な出来事だったのだろう。社説を掲載する判断をしたのは、大したものだと思うが、ほとんど無茶な企画だっただろうとも思う。
なお、これを読んで感銘を受けた人がいたとして、子供に「サンタクロースがいるよ」などと安易に説明するのは、私は勧めない。子供たちの間で「(サンタの存在を)何歳まで信じていた?」と相手を試す会話は、いつの時代でもきっとある。そこで無邪気になってムキになって「サンタクロースは、いるよ!」と発言すると、からかわれたり、いじめの標的になりかねない。もちろん、子供でもある程度物事の分別ができそうなら、言葉の奥に隠された真意を理解できそうなら、サンタクロースの存在を信じる信じないに関わらず、この書籍を与えるのは大いに有効だと思う。
そしてこれは、内容も絵柄も上品な子供向け絵本でありながら、実は大人向けのおとぎ話なのだろうと、読んでから気がつく。
物議を醸した社説は、国にかかわらず、古今東西、いくらでもあるだろう。その中でこの社説は「もっとも有名で、もっとも偉大」と評するにふさわしいと私は思う。
トナカイは、いる!
今回この本を調べるにあたって、サンタクロースの話題をいくつか調べた。その中で偶然、トナカイについて知る機会を得た。
実は私は、トナカイを架空の動物だとずっと思っていた。実在する動物だとは思いもしなかった。あんな立派なツノを生やしたシカみたいな動物がいるなんて話が出来すぎているので、ペガサスみたいに羽を生やした馬が実在しないのと同じように、創作上の動物だと思っていた。どこかの大地で佇む写真も見たことはあるが、ディズニーランドで見かけるオーディオアニマトロニクス、いわゆる機械仕掛けの人形や飾りのように、精巧にできた作り物だと思っていた。成人をとうに過ぎた年齢の人間が、他人に向かって「トナカイって本当にいると思う?」と尋ねるのは、「サンタクロースって本当にいると思う?」と聞くのと同じことで、相手の反応を試すような意地が悪い質問だと思い、問いかける気もなかった。「トナカイが実在しない」とわざわざ言うのは夢を壊すようで野暮だから発言すべきではないと思い、暗黙の了解として、もちろん誰にも言わなかった。
今回念のため調べたら、「トナカイを架空の動物と信じていた声優のエピソード」や「トナカイの肉を使った料理」という情報が出てきた。もしやと思い更に調べた結果、「真相」を知った。
トナカイが実在の動物だと知ったとき、驚いて周りに話すと「そりゃ、トナカイは、いるよ」「鼻も赤くないし空も飛ばないけど、実在しますよ」「東京だとまず見かけないけど、北海道あたりだと、普通にいるんじゃないんですか」とあっさり返された。挙げ句の果てには「そんな告白、男だから許されるんだよ。女でそんなこと言う奴がいたら、ただのぶりっこだよ」とまで言われた。
今回調べて勘違いに気づかなければ、トナカイは架空の動物と思ったまま生涯を終えたのだろうなと思う。
もっとも、トナカイが実在したとしてもそうでなくても、自分の生活になんの影響も及ぼさないので、たまたま知る機会がなかった。といえばそれまでだけど。それもあって、架空の動物だと思っていた過去を恥ずかしいことだとは、思っていない。
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- サンタクロースっているんでしょうか?
- IS THERE A SANTA CLAUS ?
- 公開:2020年12月
- 更新:2022年08月26日
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