アドルフに告ぐ
ナチの時代を生きた 三人の男達の物語
『アドルフに告ぐ』は、手塚治虫先生による漫画である。雑誌「週刊文春」に1983年1月6日から1985年5月30日まで連載された。
1936年8月、協合通信の特派員であった峠草平は、ベルリンオリンピックの取材でドイツに派遣されていた。8月5日、取材中にベルリン留学中の弟、勲から一本の電話が入る。勲はおどおどした調子で草平に、「重大な話があるから明後日の夕方8時に必ず自分の下宿に来てほしい」と頼んだ。峠は個人的な話だろうと思い、弟の深刻さを理解しないまま電話を切った。8月7日、勲との約束の日がやって来た。草平の取材しているオリンピック競技は棒高跳びから始まりアメリカ勢3人と日本2人のしのぎを削る争いとなった。その後雨が降り出し競技は中断。決勝は日没後にもつれ込んだ。そのため草平は弟との約束の時間である8時に間に合わなかった。ようやく競技が終わり、草平は急ぎ足でタクシーに乗り込み、勲の住んでいるベルリン大学の西通りへ向かった。
それから同じ時代の日本の神戸に舞台が移り、そこで住むふたりの少年、どちらもファーストネームがアドルフの友情物語の話になる。外交官でドイツ人の父と日本人の母とのハーフのアドルフ・カウフマンと、生粋の外国人でパン屋の息子のアドルフ・カミル。ふたりは大の仲良しだったが、とある事件をきっかけにカウフマンがドイツに留学し、やがてナチに傾倒していく。
これがほんの序盤で、まもなくアドルフ・ヒットラーが登場し、三人のアドルフを主軸に、時代の大河絵巻が形成されていく。物語展開、人物の葛藤の表現、それらが遺憾なく発揮された力作だ。しかしかなり残虐な描写も多いので、成人指定がふさわしい感じもする。個人的には、子供向けではないと思われる表現をうまくカバーした上で、四夜連続ぐらいでNHKあたりでスペシャルドラマ化してほしい。
この物語では、峠草平はどちらかというと脇役だが、手塚先生のストーリーテリングの巧みさで、語り部としての役割も担っている。物語のはじめと終わりにて墓地に佇む彼の姿があるが、最後のDAS ENDE.という表示が、まるで映画の演出のようで、そこに静かな感動と格好良さを毎回覚える。
なお、この作品は実録のものではない。史実とはだいぶ異なる部分もあるので、あくまで「創作」として堪能することを勧める。
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- アドルフに告ぐ
- MESSAGE TO ADOLF
- 公開:2021年05月30日
- 更新:2022年08月26日
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