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プラトニック・セックス

私の舌を入れさせて。神さまおねがい。

『プラトニック・セックス』は、タレントの故・飯島いいじまあいによる随筆である。小学館から2000年11月に初版が刊行された。彼女は以前にも「どうせバカだと思ってんでしょ!!」という本を出版しているので、これが少なくとも2度目以降の著作物となる。

当初はハードカバーの書籍として売りだされるが、圧倒的人気のために初版本はすぐに完売。版を重ね、文庫本になり、テレビドラマ、映画化などもされた。

超がつくほど厳格な教育や躾をする両親のもとで生まれ育った彼女。幼少時は学年でもトップクラスの成績を誇る秀才ぶりを発揮するが、やがて親に反発するようになり非行に走り、不良少女への道をたどることになる。度重ねる家出、補導、シンナー、万引き、カツアゲ。やがて多額の現金を盗み親の元から失踪し、新宿2丁目で働く男に惚れて彼のために売春や夜の世界に身を投じて金を稼ぐようになる。風俗業の仕事をするうちにAV業界の人にスカウトされ、整形手術(豊胸手術)を施してAV女優の飯島愛として脚光を浴び、旅行で行ったアメリカでカルチャーショックを受けて、帰国後はお色気番組「ギルガメッシュないと」に出演し、異色の芸歴を持つタレントとして活躍するようになる。しかしその時には愛する男は自分の元を去っていた。そして今は風俗業から足を洗い、人気タレントとして活躍。和解した両親、弟と一緒に暮らす。

年齢の割にかなり過激な半生が、臆面もなく次々と語られる。

この本が出版された当時は、壮絶な半生を辿った人の自叙伝というのが、出版界でちょっとしたベストセラーになっていた。必ずしも芸能人や著名人でなく、いじめを受け自殺未遂を図り揚げ句の果てに極妻になった過去をもつ弁護士であったり、超未熟児で生まれ今では健やかに成長を遂げた思春期の少女だったり、あるいは先天的に五体不満足の状態で生を享けた、当時早稲田大学の学生だった男性だったり、一般の人が多かったか。

プラトニック・セックスでは、主人公である飯島は最後に、あれほど嫌っていた両親と見事に和解する。劇的な大団円だが、そこでも彼女は、生々しい性生活への歓びを全く隠さない。文部省推薦の芸術作品よろしく生命の尊さを謳うわけでもないし、本の内容の大部分は、お世辞にも学校の道徳の授業で使えるようなものではない。むしろ、こういう人間になってはいけませんよとPTAに反面教師として語られるような内容である。「放火」「殺人」「人身売買」以外の全ての悪行を遂行したかのような犯罪履歴、非行の履歴がこれでもかこれでもかと続く。告白の度が驚くほど潔い。過去の、汚点にしかみえないような部分を隠さずさらけだしている。その潔さ、素直さが、読後の妙な達成感を読者に与えるのだろう。

飯島はこの本を発表して不良青少年だった過去をさらけだすや否や、世間から白い目で見られるどころか、好感度をあげた。

同書に添えられていた出版社宛ての読者感想カードが送り返された時には、「感動した」「愛ちゃん、あなたは素敵な人だ。これからは大手を振って堂々と歩きなさい」など激励、賛辞が殺到したという。カードに記入された年齢を見ると、やはり若い女性が多いのだが、壮年期を迎えた男女も多かったという。

初版本が発売されてからしばらくは出版元が予想もしないほどの人気になり、書店からこの本が品切れになる、普段ならばまず来ないような制服姿の若い女の子が本屋に来店するなどの現象が起きた。売り切れの状態が1週間続くことも珍しくなく、また店頭に置かれたとしても、万引の被害が抜きんでて多いともいわれた。自叙伝の発売がすこぶる好調で、万引被害がなければ更にすごい数字が売り上げられているはずだ、とベストセラー記念の場でワイドショーのリポーターに言われた飯島は、向けられたマイクに「類は友を呼ぶってこういうのを言うんでしょうね」と、いつものあのちょっと緊張感の欠けた笑顔で語り、現場にいた報道陣の笑いを誘った。

当時の女子学生の中には、この本を「最後のところが超泣ける」「私のバイブル」と力説する少女もいた。

しかし風俗業界で働き、AV女優から売れっ子タレントとしての道を辿った飯島は、やはり基本的に頭が良く、運に恵まれた部分があったのだと思う。彼女は若くして顔の異なる人生を歩み、またこの世の影も光も知り尽くしている部分がある。ましてや自分の暗い過去を語り好感度をあげるというのは、なかなかないことだ。誰もが彼女になれるわけではない。

私はこの本の、事務所の社長がつけたという題名も好きだ。精神的な絆という意味かな? と勝手に解釈している。

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プラトニック・セックス
PLATONIC SEX
公開:2021年11月20日
更新:2022年08月26日