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21世紀、世界中の人々を熱狂させる舞姫誕生!!

すばる』は、曽田そだ正人まさひとによる漫画である。漫画雑誌ビッグコミックスピリッツに1999年から掲載された。小学館しょうがくかんから単行本全11巻が刊行されている。

主人公の少女・宮本みやもとすばるバレエに出合い、自らの踊りに目覚め、21世紀を代表する若手バレリーナになるまでを描く。

累計発行部数は200万部を突破し、実写映画化がされた。

横須賀在住の小学生の女の子・宮本すばるは、悪性の脳腫瘍が原因で記憶障害になった双子の弟・和馬かずまのため、友人たちと遊ぶこともせず、毎日弟の入院先に通っては弟の目の前でひたすら日々の出来事を「踊って」みせることで回復を願う日々を送っていた。

ある日、クラスメイトの真奈まなの母が経営するバレエスクールで、軽い気持ちでレッスンを受けたところ「筋がいい」と褒められる。誰にも束縛されず自由に踊ることの喜びを初めて知り、その足で病院に向かい母親の前でバレエ教室に通ってみたいと懇願するが、その日の検査結果で余命幾ばくもないと宣告された弟の前で嬉々として自分に起こった楽しい出来事を語るすばるに対し、母は「和馬がかわいそうだとは思わないのか」と、抑えようのない苛立ちを思わずぶつけてしまう。弟の入院以降、両親に殆ど構ってもらえなかったことに鬱屈を募らせていたすばるは、自分の気持ちを少しも理解しようとしない母の言い分に我慢ができず、心ならずも「かずまなんていなきゃいいんだ!」と暴言を吐くが、一瞬意識を取り戻した和馬にその言葉を聞かれていた。翌日、和馬の容態が急変する。

自らの言葉が引き金になったと思い込んだすばるは、精一杯の謝罪の気持ちを和馬に伝えようと、真奈から即興の手ほどきを受け必死になって「ジゼル」のアルブレヒトの踊りを短時間でマスターしようと試みる。ついに全ての振り付けを覚えて真奈と共に喜ぶが、その刹那ふと我に返り、自分が和馬のことを忘れてただ踊ることに夢中になっていた事実に気付く。その事に深い罪悪感を抱えながら、和馬が助かればこれを最後にバレエはやらないと誓って和馬の元に急ぐが、時既に遅く、すばるに看取られることなく和馬は帰らぬ人となる。

葬式の日、人目をはばかることなく泣き続けるすばるに、父は慰めの意味を込めて和馬が最後に言った「すばるちゃん、ごめんね」という言葉を聞かせた。しかし、それは逆にすばるが心の中で抱えていた罪悪感をより一層刺激し、かろうじて保っていた精神の糸を断ち切ってしまう。すばるは心身喪失状態となり、葬式をひとり抜け出し雨の街を彷徨する。気が付いた時には和馬との思い出が深く残る空き地に足が向いていた。思わず和馬の名を叫んだ時、目の前に現れた黒猫に導かれるように辿り着いたのは「パレ・ガルニエ」という場末のキャバレーだった。何気なく建物の中に足を踏み入れたすばるは、キャバレーのオーナー・日比野ひびの五十鈴いすずと出会う。

作者の曽田は、「昴」執筆前にも漫画家として代表作があり、自転車競技のロードレースを描いた「シャカリキ!」、消防士を描いた「め組の大吾」など、これまであまり漫画の題材にならなかった分野をテーマに、希有な才能を持つ主人公が能力を発揮する話を描いてきた。同じ天才肌を主人公としていても、これまでは男性的な社会をメインに描いた人だったので、年頃の美少女を主人公としたバレエを描くというあたりに、当時のファンが意外に思っただろうことは想像に難くない。

「天才」を描かせたら演出が優れた漫画家で、本作「昴」も、読ませる漫画である。

小さなすばるが、茫然自失の状態で辿りついたキャバレー。そこのオーナー・日比野は、かつては東洋一とも噂されたバレリーナだった。日比野と出会うことによりバレエの英才教育を叩き込まれたすばるは、15歳の時に進路を決めるにあたり、ダンス(バレエ)で食べていこうと決意を固め、世界的なバレエ・コンクールに出場することとなる。スイスのローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップを獲得し、渡米先ではすったもんだの末に現代バレエ名作・ボレロを披露し、アメリカン・バレエ・シアター(ABT)のプリンシパルであるプリシラ・ロバーツに「面白い子」だと注目される。FBI捜査官との若さ故のほろ苦い恋の果てにアメリカ国外追放されるが、ユーリ・ミハイロフに見いだされ、ドイツのベルリン・ワルデハイム・バレエ団(ユーリの所属チーム)と契約し、盲目の美形ダンサーのニコ・アスマーとペアを組み、世界各地の公演を成功させ、遂にはブルガリアのヴァルナ国際バレエコンクールでグランプリを獲得するに至る。日本ではプリシラやユーリらと舞台を共にし、のちにフランスのパリ・オペラ座に入団を果たし、プルミエール・ダンサーズに昇進し、「外国籍初のエトワールとなるか?」と世論の話題をさらうところで幕を閉じる。──

世界的にメジャーなバレエ・コンクールとして作中に登場する、ローザンヌ国際バレエコンクールやヴァルナ国際バレエコンクールは、どちらも実在する。コンクールとしての価値がどれほどかは漫画の中で語られる説明で概ね合っているが、それぞれに参加申込エントリーし、他者に圧倒的な差をつけて栄光を手にするだけでなく、目の肥えた審査員や一般観客に、コンクール(であること)を忘れていた土曜の夜に自分でチケットを買って観に来たような気持ちだった、と言わせるすばるは、やはり凄い。

すばるの天才肌や実力のほどは、若さの割には妙に完成度が高く、作り話だとしても殆どありえないといっていいぐらいだが、それを納得させる曽田の漫画家としての演出は素晴らしい。ガラスの仮面(演劇の天才少女を描いた熱血根性派の少女漫画)を読む時の感覚に似ていて「主人公は勝負に勝つだろうけど、どんな風に読者を魅了してくれるのか」というワクワク感がある。

連載当時、本作について「バレエをやっている者として、描かれた線の太さが気になるが、踊る時の感覚はすごく理解できる部分がある」と感想が書かれたページがネット上にあった。その他にもバレエについて多少の知識がついた上で読むと、本作の登場人物が何気なく語った台詞(たとえばすばるがヴァルナのグラン・フェッテ・アン・トールナンを決めたのに、周囲が感心するのではなく呆れ返る理由など)の意味が分かって面白い。

本作の前半部分の登場人物のひとりである真奈は、15歳の若さでローザンヌにエントリーし、最終選考に残った実力があり、彼女もまた有能なダンサーといえる。

また、後半で登場する中国出身の少女シュー・ミンミンは当初は嫌な小娘として登場するが、最終的にすばると和解する。

すばるの、若さに似合わない壮絶な経験や華やかな成功ばかりが印象に残るだが、個人的には、シュー・ミンミンについて、幼い頃の苦労が報われることがもう少しきちんと明示される結末が見たかった。

天才バレエダンサーを主人公にした漫画など、いくらでもあるが、この作品は成功した名作のひとつと呼べる。何度も読みたくなる作品だ。

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SUBARU
公開:2021年08月01日
更新:2022年08月26日