CROSSWHEN

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星を継ぐもの

5万年を経た人骨が月面に?!

ほしぐもの』は、ジェイムズ・パトリック・ホーガン著作、いけ央耿ひろあき翻訳による小説である。株式会社東京創元社とうきょうそうげんしゃの創元SF文庫から文庫が刊行されている。ホーガンの著作のうち、とりわけ日本での人気や評価が高く、星野ほしの之宣ゆきのぶにより漫画化もされている。

深紅の宇宙服をまとった死体が月面調査隊によって発見される。研究室で調査がなされた結果、現代人とほぼ同じ生物であるにもかかわらず、「彼」が5万年前以上も前に死んでいたことが判明する。各分野の専門家が集められ、世界中で一大センセーションを巻き起こし、物議を醸し出す。彼の正体は? なぜそこにいたのか? 新たな事実は更なる謎を呼び、やがては木星の衛星ガニメデで、地球のものとは異なる、そして遥かに科学技術の進んだ宇宙船の残骸が発見される。

プロローグ、全24章、そしてエピローグから成る長編小説である。また作者の経歴や知識を生かして、物理学や生物学その他の学術的な見解も含めて、濃密な話が展開され、主役であるイギリス人のヴィクター・ハントの視点で話が進んでいく。

本書は科学技術をふんだんに持ち出してリアリティを演出する、いわゆるハードSFの系統だが、原書が刊行されたのが1977年。東芝が日本語ワープロの国産第1号機(JW-10)を生み出す前年である。現代の感覚で読むと、どうしても時代錯誤な場面が出てくる。コンピュータに複雑な数式を計算させて事実を導きだす流れや、ビデオレターが登場する類いは、おお! と思うが、データを「テープ」に保存するくだりは非常にオールドでクラシックな印象を受ける。クラウドもセキュリティもウィルスも出てこない。個人情報の扱いやコンプライアンス云々について語る場面も出てこない。

全ての謎が明かされた後、主要人物のひとり、生物学者のダンチェッカーによって、とある仮説が提唱されて話は幕を閉じる。題名の暗示することがここで初めて明らかになるが、本書はその後いくつか続編がある。壮大な巨編だが、日本では創元SF文庫による読者投票で第1位になっていることもあり、評判の高さは折り紙つきである。

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星を継ぐもの
INHERIT THE STARS
公開:2021年05月23日
更新:2022年08月26日