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ポーの一族

はるかなる一族によせて

『ポーの一族いちぞく』は、萩尾はぎお望都もとによる漫画である。別冊少女コミックに1972年から掲載された。

主にイギリスを舞台にして、吸血鬼バンパネラ一族の末裔の美少年エドガー・ポーツネルの生涯を描いた物語。作者の萩尾は1969年に雑誌「なかよし」に短編漫画「ルルとミミ」でデビューしていたが、ポーの一族シリーズによって漫画家としての人気と地位を不動のものにする。

萩尾は大御所の域に入る経歴の持ち主で、作品集なども多く刊行されている。作者紹介の際に間違いなく代表作として挙げられるうちのひとつがこの「ポーの一族」である。小学館しょうがくかんから単行本全5巻が刊行されている。


18世紀半ば。幼児の頃、貴族の子供エドガーは妹のメリーベルと共に、森林の中に捨てられる。寒さと深い霧に怯えて泣く二人。泣き声を聞きつけてやってきた老女ハンナとその連れによって救出された二人は、ハンナの元で生活していくことになる。

数年後。ある時いつものように二人が外で遊んでいると、中年紳士のポーツネル氏とシーラ夫人がハンナの元にやって来るところに出くわす。紳士と夫人は深く愛し合った仲だった。ハンナは彼らの愛を再確認すると、夜な夜なある儀式を始める。実はハンナの一族はバンパネラで、完全にポーツネル氏の伴侶となるべく、シーラをバンパネラにする儀式を行っていたのだ。その現場を見てしまったエドガーは、メリーベルを人質にとられ、仕方なしに、成人した際にはポーの一族に加わる(=バンパネラになる)ことを承諾する……。

途中でエドガーは最愛の妹メリーベルを含む周囲の人を失ってしまい、新しく得た美少年のアランを仲間に加え、時を超越した哀しみの旅に出る。

この作品は、数年に渡って雑誌に連載されたが、現在の漫画雑誌によくあるような連載形式でなく、基本的に1話完結方式で、不定期連載だった。しかもそれぞれ掲載された話の年代は、規則正しく時系列に沿ったものではなく、未来に行ったり過去に行ったり、更に過去に遡ったりとかなり複雑な構成になっている。バラバラにされた話を年代順につなげると1つの壮大な物語が浮かんでくるが、それぞれの逸話はひとつの短編漫画としても成立するほどの完成度の高さを持つ。

話の内容も、絵柄も、構成も構図も主題も、とても子供向けとは思えない。高校時代の教諭に、当時リアルタイムで読んでいた人がいたが、「大人向けの話という感じで、当時私は小学生だったけど、なんともいえない重量感を感じて恐い雰囲気があった」と言っていた。

この漫画が連載されていたのは、戦後の中でも有数の激動の時代にあたる1970年代である。執筆当時、作者の萩尾は同志の女流少女漫画家(24年組と呼ばれる)と共に東京の大泉に同居していた。そして少なからず、仕事に対しての熱などは、安保闘争などの世相の雰囲気に影響された面があるだろうと雑誌で語っている。


「永遠の時を生きるバンパネラ」を語り部に作者が語りたかったことは何か。それについては研究本の類いが、これでもかこれでもかと推測を巡らしている。

確実なのは、読者は誰も、まず間違いなく、この漫画の、耽美的とでもいうか、独特の雰囲気に圧倒されるだろうということである。やたら目の大きい美貌の少年エドガー。彼は美しいだけでなく小悪魔的な意地悪さと、救いようのない影の部分を共存した雰囲気がある。しばらくして話の雰囲気に慣れた読者は、今度は未来や過去に行ったり来たりする独特の構成、韻を踏んだセリフ回し、そして奥深い主題に、想いを染めるのだろう。

現在に至るまで、単行本、文庫その他様々な形態で出版されている。形態によって、話の収められた順番が違うので更にややこしい。

独特の雰囲気があるので、どうしても好きになれないという人もいるだろう。無理には勧めないが、一度本を手に取ることを提案する。

一度ページをめくれば、カルチャーショックが待っている。

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ポーの一族
THE POE CLAN
公開:2021年06月01日
更新:2022年08月26日