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シン・ゴジラ

現実ニッポン虚構ゴジラ

『シン・ゴジラ』は、庵野あんの秀明ひであき監督による映画である。2016年に公開された。本編119分。

東京湾でプレジャーボートが漂流しているのが発見される。海上保安庁職員が乗り込むが、その時海面が大きく揺れ、大量の水蒸気が噴出し始める。連鎖して東京湾アクアトンネルが崩落する事故が発生。首相官邸での緊急会議が開かれ、内閣官房副長官・矢口やぐち蘭堂らんどうが、海中に潜む謎の生物が事故を起こした可能性を指摘する。直後、海上に巨大不明生物が出現。鎌倉に上陸し、人々がパニックに陥る中を、街を破壊しながら突進していく。

政府の緊急対策本部では首相が苦渋の決断を下し、自衛隊初の防衛出動が決定する。「ゴジラ」と名付けられた巨大不明生物に立ち向かうが、……、。

2016年の大ヒット映画のひとつである。


私はゴジラはもともと興味がなく、この映画について「あのアニメのエヴァンゲリオンの庵野監督がゴジラを手がけた」という認識しかなかった。公開されてからしばらくして、SNSで評判がよかったので、劇場で鑑賞した。IMAX(アイマックス:巨大スクリーン)で1度、MX4D(エムエックスフォーディー:振動や水しぶきを体感できる)で1度。ゴジラシリーズを知らない前提なのが却って良かったのかもしれないが、非常に楽しめた。個人的には10年に1度出るか出ないかの優れた映画だと評価している。

劇場公開当時に、この映画をさりげなく紹介している新聞記事でこれまでのゴジラシリーズでは科学者が主役だが、シン・ゴジラでは若手や中堅の官僚が主役になっていると書かれていた。私はそれを読んではじめて、ゴジラは本来なら科学者がしゃしゃりでるのが定番だったと知った。ゴジラについては「東宝のドル箱」「あの有名なテーマ曲」「銀座の一流の建物が破壊される」ぐらいしか知識がなかった。

この映画はリアリティの追求が群を抜いている。あの巨大地震やそのあとの政府の対応や自衛隊の活躍ぶりを経験した日本人なら、誰もがすぐに理解できるような話の展開と物語の演出がある。「もし今の日本にゴジラが本当に上陸したら、果たしてどうなる?」をシミュレートしたような官邸の会議、官僚たちの行動、一般市民たちのデモやSNSでの騒ぎ。当初ゴジラが登場した時に誰もが「なんだあれは?」と呆然と見上げて、「巨大不明生物」が「ゴジラ」と命名される。意外と職業意識が高い官僚や政治家たち、一般市民のおばあちゃんおじいちゃんや子供たちの避難を柔らかく手助けする自衛隊職員たち、SNSの画面上であることないこと騒いだりこんなときだからこその団結を呼びかけるひとたち。今後この映画が再上映や再放送された時、「2016年当時の日本はたしかにこんな感じだった」と伝えるのに十分だと思う。登場人物たち、特に官僚たちが異様に早口なのも特徴的だが、私は知り合いの官僚を思い出して「そうそう、たしかに官僚ってこういう風に早口だった」とうなずいた。彼らはもともと把握している情報量が多く、情報処理能力も高いため、自然に早口になるのだろう。


いつでも続編が作れそうな終わり方をする一方で、スタッフロールの最後の一秒まで手抜きせず丁寧につくられている感じもある。

映画公開当時話題になったことのひとつが、300人を超えるキャストの総てが一線で活躍している役者や著名人だということだ。会議室の場面で一同が会するシーンでは、ひとつの映像に全員が収まっているが、画面のどこを見渡しても、テレビや映画で見たことがある顔「だけ」で構成されていた。ひとつの会議室のセットに集めて撮影した背景に、これだけの人間のスケジュールを全て合わせた事情が存在する。神がかり的な時間調整を行なったのだろう。それだけみても、東宝の意地を感じた。

主演の一人、竹野内豊はモデル出身の芸歴を持つ俳優だ。つまり顔が小さくて手足がスラッと長い。そんな彼と一緒に並んだら大抵の人はどうしても見劣りがする。シン・ゴジラでは刑事ドラマによく出てくるような中年の男性俳優も多いが、竹野内豊と並んでも、さほど不恰好ではなかった。つまり男性俳優たちはおそらく、普段のテレビドラマでは気づきにくいだけで、一般人に比べると顔が整っていて小さくてそれなりにモデル体型なのだろうなと思った。それでいていぶし銀の存在感を放つ。やはり芸能というのは、普通の人にはできない。


全体的には、同じ監督だからか、アニメのエヴァンゲリオンの演出を露骨にコピーしたようなところが多い。一方でスタッフも役者も2016年当時で最高の顔ぶれが用意されているのは確かで、ゴジラは今後続編が制作されたとしても、この豪華さを再現するのは不可能だと思う。それほどに完成度が高い。

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シン・ゴジラ
SHIN GODZILLA
公開:2021年07月29日
更新:2022年07月16日