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2001夜物語

センス・オブ・ワンダーによる、1980年代SFコミックの代表作。

『2001物語ものがたり』は、星野ほしの之宣ゆきのぶによる漫画である。月刊スーパーアクションに掲載された。双葉社ふたばしゃから単行本全3巻が刊行されている。

初回(第1夜)「大いなる祖先」から、最終回(最終夜)の「遥かなる地球の歌」まで、全20話程度で構成されている。

人類が宇宙に進出を始める20世紀後半から始まり、反物質による無尽蔵のエネルギー、冬眠カプセルによる人工冬眠、超空間航行、ウラシマ効果、新しい生活環境で生まれた新世代の登場、その他、空想科学分野における定番の素材が次から次へと登場する。SF分野に多少知識のある人なら「これはあの名作のオマージュだな」とすぐに分かるような、既存の映画や小説のタイトルやエピソードが随所にちりばめられている。

最後、物語は宇宙の無限の彼方、さらに果てを目指し、漆黒の幕をおろす。

作者の星野は北海道出身である。愛知県立芸術大学美術学部を中退しているが、漫画家として、非常に端正で緻密な作画および表現力の人で知られ、経歴も代表作の数も、SF漫画の分野で間違いなく大ベテランの部類に入る。

本作「2001夜物語」は彼のキャリアとしては新人から中堅の頃の作品らしいが、作画の素晴らしさはすでに職人のレベルで、「DEATH NOTEの小畑健さんや、AKIRAの大友克洋さんが、もしも宇宙を舞台にしたSF作品を描いたら、こんな感じだったかも」と私は思う。この漫画の描画に見慣れてしまうと、きっとその他の多くの漫画家のは子供の落書き並に感じられ、つらくなるだろう。

あらすじだけを辿れば味気ないような物語が、圧倒的な作画で、息を飲むような場面の連続に生まれ変わる。しかも星野は毎回、それぞれの場面で妙に人間臭いエピソードや伏線を生む術に長けていて、物語性で魅了してくれる。無尽蔵のエネルギー発見を巡る「悪魔の星」では、聖書(更にいうとジョン・ミルトン作の「失楽園」)の概念に絡めて、聖職者と科学者との2つの顔で揺れる男性の葛藤を描く。「天の川はすべて星」では、後の宇宙時代の基礎となる移動技術が確立される逸話を、天才科学者の一人娘の視点を通して描く。堅苦しい話や理系の辻褄合わせがどうにも苦手な人でも、雰囲気や感覚でなんとなく読める仕上がりになっている。

ハリウッドあたりが映画化してくれないかなとも思うし、CGでアニメーション映画できないかなという気持ちもあるが、この圧倒的な雰囲気は、やはり漫画でないと無理だなとも思う。「2001夜物語」はアジア人は殆ど登場しない。それでも登場人物は美男美女だけではなく、海外に行けばいかにもそのへんにいそうなおじさんやおばちゃんなども普通に出てくる。そのあたり、絵が巧いだけでなく、妙なリアリティも感じる。

ちなみにインターネットでこの作品の感想を見ると、概ね絶賛しているが、「中学レベルの科学の知識が分かれば、よく考えれば嘘と分かるような話の展開もある。でも圧倒的な絵のクオリティで話を進めている」みたいな書き込みを見たことがある。つまり、漫画の中で提示される科学的事象は、害のない程度に嘘も含まれている。お読みになる場合は、そのことも前提で。

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2001夜物語
SPACE FANTASIA
公開:2021年08月18日
更新:2022年08月26日