CROSSWHEN

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ノートルダムの鐘

あなたを決して忘れない…。

『ノートルダムの鐘』は、ゲイリー・トルースデールとカーク・ワイズの両監督による映画である。日本では1996年に公開された。本編90分。原作はフランス文学界の大御所ヴィクトール・ユゴーの小説から。ディズニー34作目の長編アニメーション映画である。

映画の冒頭と終盤、そこに道化師の男性クロパンが登場する。彼は狂言回しの役も演じていて、観客を中世のフランスの世界に一瞬で引きずり込む重要な役割を果たしている。荘厳な宗教音楽の旋律を連れたゴスペル。暗転から一転、天空の雲を突き破って降下し、中世のパリの街の中へ入っていく。そうして本編が始まる。司祭フロローがジプシー狩りをする際に、追っていたジプシーの女を殺めてしまう場面へと急展開する。雪がごうごうと降る大聖堂の前。ジプシーが抱えていた毛布を解くフロローは、その中に赤ん坊を見つける。そのあまりの醜さに思わず「化け物だ」と声をあげ、ふと見つけた井戸に捨てようとする。その時。待て! という司祭(一瞬、狂言回しのクロパンと重なる)の叫び声が貫く。咎められ、いぶかしげに聖堂を眺めるフロロー。その時に聖堂の壁に並ぶ石像の目に、初めて罪の意識を覚えたフロローは、司祭の言いつけに従い、赤ん坊を育てることにする。 Quasimodo (カジモド:できそこないの意)と名付けて。そこでようやく映画の題名が画面に登場する。

この映画は、差別、いじめ、人殺しなど、今までディズニーが避けていた暗く重い部分を敢えて前面に出している。ケレン味溢れる濃淡の濃い色彩、鳥瞰や俯瞰などの大胆な構図。主人公は醜く、業を背負い、途中で登場する群衆は、時に弱者を平気で虐げる残酷さをみせる。そこにはディズニーというブランドの代名詞といえる夢や魔法はない。予定調和も奇跡もない。逆に、ディズニーが今まで持っていたそうした面が大嫌いな人にはとても新鮮に見えて、また優れた作品に映るかもしれない。

今のところ、これが私の最も好きなディズニー映画だ。劇場で鑑賞したが、現時点で唯一、結末で感動して泣いたディズニー作品である。サウンドトラックも購入して何度も聴いて、劇中歌もいくつか覚えた。この映画はまた、松浦美奈さんによる日本語字幕も素晴らしい。

ディズニーが、広く知られる原案のある作品を映画化するにあたって、物語を正反対といっていいほど大幅に改変した事例は、アンデルセンの「人魚姫」を映画化した「リトル・マーメイド」がある。結末で人魚姫が王子様と結ばれず泡になって消えるのではなく、王子様と結ばれる、あの流れだ。私は、リトル・マーメイドの件は改悪だと個人的に思っているが、この「ノートルダムの鐘」は、は大幅な改変が成功したと私は思う。フロローと周辺人物との関係、警備隊長フィーバスの登場後の展開など、明らかに原作と違う部分がたくさんあるが、映像、音楽、演出、声の出演、主題、全てが見事に和になっている。

日本では興業成績が抜きんでて良くはなかったが、優れた作品だ。

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ノートルダムの鐘
THE BELLS OF NOTREDOME
公開:2021年08月24日
更新:2022年07月16日