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スウィングガールズ

ジャズやるべ♪

『スウィングガールズ』は、矢口やぐち史靖しのぶ監督による映画である。2004年に公開された。本編105分。

夏、東北の片田舎の高校で、夏休み返上で登校し、補習を受けにきている女子生徒達。同じ頃、野球部の応援で吹奏楽部の生徒達がバスに乗って球場へ向かう。タッチの差で、配達に遅れた弁当屋のワゴン車がやってくる。その様子をたまたま見ていた女子生徒のひとりが、補習をサボる口実として、忙しい弁当屋の代わりに、みんな揃って弁当を届けることを提案する。路面電車に乗り、田んぼのそばにある道を歩き、なんとか弁当を渡し終える女子高生達。しかし彼女達の弁当が原因で、吹奏楽部の生徒達は食中毒にかかってしまう。

吹奏楽部で唯一食中毒を免れた少年(なぜ逃れられたかは、本編を見てのお楽しみ)は、翌日、何食わぬ顔で補習の授業にやってきた彼女達に、吹奏楽部員の臨時補欠として、楽器を持って野球部の応援に加わるように強制する。彼の意見を聞いた女子高生達は、吹奏楽部を救うためでなく、野球部の応援のためでもなく、「補習をさぼる」口実として楽器を手に取ることにする。しかし人数的な都合で、ビッグバンドを結成する。

生まれて初めて楽器を手に取る彼女達は当然扱い慣れず、音を鳴らすこともできない。少年の指導のもと、基礎体力づくりその他、スポーツ根性並の練習を積むこととなる。そして下手ながらもようやく合奏ができるようになった頃、元の吹奏楽の部員達が食中毒から回復し、彼女達は用済みになってしまう。ようやく音が出せるようになった、ようやく合奏ができるようになった、つまり、ジャズの楽しさに彼女達の若さが反応し始めた矢先だった。諦めきれない彼女達はビッグバンドを再結成するが……、。

全編が軽い演出で描かれている。脇役には見覚えのある役者が多数登場するが、主役となる女子高生達16人はオーディションで選ばれた。

話の前半は、何気ない女子高生の夏の日常や、学校生活などを、ギャグをまじえて描いている。私は劇場で観たが、客席では笑いが絶えなかった。

若い少年少女が、ひとつの目標に向かって全力投球していく。古今東西、いかにもありがちな王道のアイドル青春物語の定番ストーリーだが、なかなかどうして、観るものを全く飽きさせない。中盤で、自分たちの身近にいた意外な人物が、ジャズについて造詣が深いことを知る彼女達。「裏打ちといって、ジャズの場合は、他の曲とはリズムが逆になる」などの基礎を教えられ、めきめき演奏の腕をあげていく。

終盤、雪の降る中、応募した演奏会の会場に辿りついた彼女達は、今までの練習の成果をジャズの調べに乗って披露する。「A列車で行こう」「シング・シング・シング」など名曲の数々を繰り広げる。はじめはバカにしていた会場の客は次第に演奏に引き込まれ、しまいには全員が立って手拍子をし、スウィングを始める。まさに大団円。

「理屈抜きで楽しめる」という言葉が相応しい映画である。家族で行っても、恋人同士で行っても、あるいはひとりで行っても楽しめる。インターネットの掲示板では「予想を超えて観客動員数が伸びているから今、配給元が慌てて上映館を増やしている」「サントラ(映画で使われた音楽を収録したCD)が順調に売れている」「邦画にしては珍しくリビーター(再入場者)が多い」など様々な意見があったが、たぶんどれも本当だったのだろう。

私事になるが、中学生の頃、不良でありながら吹奏楽部員で、ラッパ(正確には覚えていないが、映画の中で主人公が吹いていたのと多分同じ)を吹くことだけは熱心だった男子学生がいた。直接の知り合いでなかったが、目立つ人だったので、吹奏楽部員であるというのがどんなことを意味するか、少しだけ知っている。楽器の値段が凄く高い、なかなか音が出せない、やっと音を出せても、思い通りに演奏するには時間も体力もかかる。しかし音が非常に大きく、住宅の中では音の迷惑になるので練習できる場所が非常に限られてくる。この映画はそういった現実的な負の部分も正面から描いているのだが、うまくすくいあげ、巧みに笑いに変換させている。その最たる辺りは、中盤に登場するイノシシにまつわる話だったり、スーパーにまつわる話だったり、工場で楽器を直す話だったりするだろう。もちろん、突っ込みを入れたくなる場面も笑いのそばにたくさんあるが、それは「作り話だから毒のない程度に嘘もあるさ」ということで許容範囲として覚えた。

映画のラスト、「スウィングガールズ・アンド・ア・ボーイ」がジャズを演奏する場面は、見事の一言につきる。ソロ演奏、合奏、楽器をスウィングさせるアクションなどの全てがさまになっている。私の行った時は残念ながら起きなかったが、この映画の上映初日では、映画に合わせて、映画を観ている客席でも手拍子が起こった劇場があったという。羨ましい。この映画を見る時は、そのくらいのノリの良さがあってもいいと思う。

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スウィングガールズ
SWING GIRLS
公開:2021年09月11日
更新:2022年07月16日