CROSSWHEN

広告

***

マトリックス

既成概念を捨てろ。

『マトリックス』は、ウォシャウスキー兄弟監督による映画である。日本では1999年に公開された。本編136分。

コンピュータ・プログラマーとしてニューヨークの大企業で働くアンダースン。彼はまた、ネオという名前の凄腕ハッカーとしての別の顔も持っていた。最近の彼は、起きてもまだ夢を見ているような感覚に悩まされていたが、ある日自宅のパソコンの画面に、不思議な文字列が浮かび上がるのを見る。「起きろネオ "Wake up,Neo."」「マトリックスが見ている "Matrix has you."」「白ウサギの跡をついていけ "Follow the white rabbit."」。そして正体不明の美女トリニティーに出会い、モーフィアスという男とその仲間に出会う。

モーフィアスが見せる世界の真実の姿は、驚くべきものだった。今は1999年(この映画の公開された年)ではなく、2199年頃。人間達が現実だと思っているのは「マトリックス」と呼ばれる仮想世界。実際には、人類は発電所の中で羊水のような液体に浮かばされ、コンピュータに栽培されている。自分の足で立つことも、自分の目でモノを見ることもなく。今見ている1999年の世界は、コンピュータによって作り出されたリアルな幻なのだ、と。そしてそこにはコンピュータと人類の戦いがあり、ネオは予言者の言った人類の救世主だった。自分が本当に救世主なのか。戸惑うネオにモーフィアスは続けて言う。既成概念を捨てろ

物語だけなら典型的なサイバーパンク、いわゆるSFだが、公開当時に「映画の革命」と宣伝された映像効果の数々で、この映画は大変な話題となった。仮想世界の中で数々のアクロバット(曲芸)を駆使しながら冒険をすすめる登場人物達。それらは一貫して目の覚めるような映像効果を通じて銀幕に投影された。映画制作の少し前には技術的に不可能だったというマシンガン撮影に代表される映像処理や、ワイヤーフレームやカンフーなどを駆使して、白眉の映像がこれでもかこれでもかと展開される。「キックやパンチ、それらアクションの1つ1つに、ストーリーボードによるディテールたっぷりの指示があった。こんな映画の制作スタイルは初めてで、ビックリさせられたよ」とは、ネオを演じた主演俳優キアヌ・リーブスは語っている。彼は俳優として「スピード」などの代表作があったものの当時日本では人気が低迷気味だった。この映画の登場した頃は雑誌などで「キアヌ完全復活」といわれた。公開前からマスコミでもえらく騒がれていて、ハイライトの、主人公がビルの屋上でのけぞって銃弾をそらす場面に至っては、どのようにして撮影したかをテレビや雑誌はこぞって紹介した。私は本編の前にそれらを見た人間のひとりで、つまりは舞台裏や撮影の秘密を少しだけ知っていたようなものだったが、それでも劇場の大画面で鑑賞したCG合成の特殊映像の場面の数々は圧巻、ただ圧巻だった。当時、劇場の先行オールナイトで鑑賞したが、本編終了後、マリリン・マンソンの曲を背景に流れるスタッフロールも終わり、映画会社などのロゴが表示された。幕が閉じられる時に観客席から拍手が起こっていた。私も拍手した。

物語は古今東西よくある勧善懲悪のヒーロー登場物語だが、映像以外にも、ギリシア神話から引用した登場人物の名前やマトリックスの秘密など細かい設定があり、それがうすっぺらいアクション映画にとどまらない役割を果たしている。その一方、日本の漫画によくある雰囲気を借りたような「ジャパニメーション・オタク・パワー」な雰囲気も存分に込められている。映画の最初と最後に登場する、黒い背景に緑の文字列が縦方向に並ぶ場面だが、これは映画の美術担当が「日本語は縦書きの言語だから、日本で使われているコンピュータ・プログラムは縦書きに違いない」と思ってそういうデザインになったのだという。その他にもこの映画は妙なところで日本文化の趣きが散見している。

コンピュータ・プログラマーという不健康そうな仕事の割に、ネオは見事な肉体をしているし運動神経抜群だなあとか、なんで登場人物はよりによってみんなサングラスをしてレザーを着ていて無表情なんだとか、突っ込みどころもあり、それがまた魅力的だ。

第1作の映画公開は、冒頭にも挙げたとおり、1999年。まだDVDは普及しておらず、WindowsでいえばXPも存在せず、クラウドの普及もブロードバンドも動画配信も始まっていない。Googleはまだ広告配信サービスも日本法人設立もない。Apple社の目玉商品はiPhoneではなく初期のおにぎり型iMacだった。携帯電話関連いえば、迷惑メールが社会問題となり、IDOとTu-Kaのブランドが存在していた。藤原紀香をイメージキャラにしたJ-PHONEによる快進撃があったが写メールはまだ存在しない。そういった20世紀末の作品なので、描写や演出にどうしても時代を感じる部分もあるが、映像の凄さはやはり特筆すべきものがある。

***

マトリックス
THE MATRIX
公開:2021年09月11日
更新:2022年07月16日