CROSSWHEN

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シックス・センス

僕には死んだ人が見えるんだ

『シックス・センス』は、M・ナイト・シャマラン監督による映画である。日本では1999年に公開された。本編107分。

マルコム・クロウ(ブルース・ウィリス)は、長年に渡り子供達の心の病の回復に身を捧げ、第一人者として活躍し、公的な賞を受賞するに至る小児精神科医。ある日妻のアンナと自宅で一緒にいたところ、10年前に担当した少年グレイが現れる。「自分を救ってくれなかった」とクロウに対する恨みを吐露した後に発砲し、自らも自殺。グレイの精神を救えていなかったことにクロウは医師として自信を喪失し、妻との間も疎遠になる。そんな彼はある日、8歳の少年コール・シアー(ハーレイ・ジョエル・オスメント)に出会う。グレイに似たものを彼の中に見つけるクロウ。コールはいつも何かに対してひどく怯えていて、母のリンと意志の疎通を図ることが出来ず、ひとり苦しんでいた。頑なに心を閉ざすコールに、過去を語ることで自分の弱さをさらけ出すクロウ。コールはやっと心を許し、悩みを打ち明ける。

僕には死んだ人が見えるんだ

「彼らには、自分が死者だという自覚はない」。

彼の告白を一種の精神病と判断したクロウ。彼を救うことで自らも救われればと、全力を尽くす覚悟を決める。しかし妻のアンナとは相変わらず疎遠で、コールも母のリンと打ち解けられない。

ある日クロウはコールを連れて、バスで遠い町へ繰りだす。そこでは幼女の告別式が催されていたが、コールは幼女の霊からビデオテープを受け取る。そこには病弱な彼女を、母親が殺害する場面が映っていた。

ひとつの犯罪を明らかにし、互いの信頼を築く2人。コールは学校の劇で主役のアーサー王を演じ、すっかり御機嫌に。続いて祖母の霊を通じてリンとも和解。コールを救ったことでクロウの役目は終わる。去っていく彼に「また会えると言って」というコール少年。

自宅に戻ったクロウは、ソファで寝ているアンナの元に寄ってくる。和解しようと。そこに床を転がり落ちてくる 1 つの指輪。「なぜなの……マルコム」そう寝言を漏らすアンナ。彼女の指には指輪がしっかり収まっている。その時、クロウの脳裏に、2つのことが蘇る。グレイに撃たれた時に負った傷。続いてコールの言葉“彼らには、自分が死者だという自覚はない”……自分が死者なのだと知ったクロウは、打ちのめされながら、アンナに語る。

「しなければいけないことがあったんだ」「おやすみ」。


題名のシックス・センスは第6感の意味で、日本では「虫の報せ」の意味を持つが、欧米では「死者を見ることが出来る」能力の意味で使われるという。

映画は、映像も音楽もちょっと暗めな演出で、映画そのものも「新感覚スリラー」と銘打って宣伝されていた。冒頭でも、この映画にはある秘密があります。まだ映画を見ていない人には、決して話さないで下さいという、親切とも挑戦的とも取れる文句が登場する。

死んだ人の霊が見える少年が時折見てしまう霊。彼らはなぜか決まっておぞましい姿である。しかも登場する時に大げさな効果音までついてくる。

冬のフィラディルフィアを舞台に描かれる物語は、同時期公開のSF映画(マトリックス、スターウォーズ エピソード1など)にあったような、目の覚めるような映像展開はない。主演俳優や制作陣を見ても、知名度で集客できるのはクロウを演じたブルース・ウィリスぐらいでなないだろうか。派手な映像がない分、この映画が「商品」となりうる要素があったとすれば、それは役者の演技力、物語性、構成などといった、基本的なものだけだろう。

そしてそれが、この映画が高い評価を得た理由だった。

公開されるや否や、孤独な怯えを演じきった少年コールを演じた子役ハーレイ・ジョエル・オスメントは各紙で絶賛された。史上最年少のアカデミー賞候補と囁かれ(実際には受賞しなかった)、共演のウィリスを完全に喰ってしまったとさえ言われた。ウィリス自身、オスメントの演技を讚え、映画宣伝の来日の会見の席で「彼との共演はもの凄いプレッシャーだった」と語っている。DVDに特典として収録されている、映画本編では使用されなかったパイロット・フィルムでは「僕を見るな」という台詞を交えた短いやり取りで、更に天才的な演技をしている。一見の価値あり。

そして物語構成。この映画の脚本と監督を担当したのは1970年インド生まれのM・ナイト・シャマラン。彼の経歴の上で、シックス・センスの成功は生涯に渡って語られるだろう。

この映画は、恐怖感も売り物だが、その他に実はウィリスが死者だったという物語全体にまたがる伏線や、ウィリスとアンナの夫婦間の絆、オスメントの母と子の間の絆、オスメントが目撃する死者達が死後も抱え続ける悩みなど、恐怖感だけで終わらない深さがある。それが秀逸な点だ。

物語展開に様々な仕掛けがされていて、「もう一度観たい」と思わせる映画だ。根はしっかりしているし家族で観賞しても差し支えないだろうが、お世辞にも派手とは言えず、娯楽性に欠けている部分も否めない、地味な映画だと思う。現代アメリカ映画にしては非常に珍しいタイプで、ヨーロッパの古典映画のようだ。

公開当時のアメリカでは「僕、死んだ人が見えるんだ」 " I can see the dead people." が子供たちの間で流行語になったという。

一見地味で大人しい映画でありながら、これほど話の筋に隙のないハリウッド映画も珍しいと思った。ウィリスの最後の「おやすみ」がこの映画の全てを表わしている。

胞衣にも似た罪深く甘美な闇の世界に、疲れ切った人々の病める魂が去っていく。その途中で「おやすみ」と告げる映画である。


この映画は、DVDでは未公開シーンが幾つか特典で収録されている。そこでは、最後の「おやすみ」のセリフの後に、さらに別の場面が続いていたことが分かる。

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シックス・センス
THE SIXTH SENSE
公開:2021年10月30日
更新:2022年07月16日