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タイタニック

運命うんめいの恋。誰もそれをくことはできない。

『タイタニック』は、ジェームズ・キャメロン監督による映画である。日本では1997年に公開された。本編189分。豪華客船タイタニック号の処女航海、及び沈没するまでを描いたアメリカ映画である。

世界中で興業成績の新記録を樹立するヒット映画となり、社会現象となり、日本ではアニメーション映画『千と千尋の神隠し』に抜かれるまでは歴代興行収入1位だった。

私はかなり早い時期に劇場で観賞した。新宿の大きな洋画系大劇場。向かいの映画館では SF「MIB」をやっていて、マスコミではそちらばかりが騒がれていた。チケット売り場もこちらは向こうに比べて人が少なく閑散としていて、こんなの選んで失敗したと思ったのを覚えている。第1回目の上映ということで割引価格で買えた。劇場はガラガラだった。それから一ヶ月くらい後だろうか、テレビなどが騒ぎ始めてブームが始まった。

ハリウッドの大作はどれもそうかもしれないが、この映画は制作規模が半端でなかった。

タイタニック号のセットを、資料に基づいて至極正確に作る。船がいずれ避けて沈むという物語の流れを考慮して、予め真っ二つに割れるように。しかしセットを浮かべられる水槽スタジオがない。だからスタジオを新設する。この映画のために。船の場面の撮影だけに。本編のハイライトのひとつとなる船頭でのラブシーンは、天候のいい日に水平線の見える場所まで移動して撮影。後半の浸水した船室での乱闘場面の撮影には一ヶ月。当時まだ若手注目株だったディカプリオはインタビューで「あまりに撮影が長いから、この映画が完成するなんて誰も信じてなかったよ」と語っている。

沈没の場面はスタジオ内で撮影。乗客が落ちていく映像はスタントマンによるもの。あとで夜間の嵐の映像と合成したり、上流階級の衣装のひとつひとつ、小道具の細部に至るまで可能な限り当時そのままのものを追求する。すごい気合いだと今でも思う。

映画では、冒頭の20分が現代の場面に使われている。無駄な箇所とは思わないが、今考えても20分はちょっと長いなと思う。タイタニック号が沈没に至る経緯がCGを使って事務的に語られる。その中に事故の生存者の年老いたローズがいて、悲劇的事故に対する世代の捉えかたが浮き彫りになる。

ローズが語り始める。真っ白なお皿、新しい匂いのする船室。その船は夢の船と呼ばれた。そう、まさに“夢の船”だったわ( It was a real "the ship of dream". )。その台詞が現代と過去をつなぐ。

若さを捨てきれず、無謀な恋に走るジャックとローズ。その二人をディカプリオとウィンスレットが熱演する。二人には容姿以外にも煌めきが感じられ、それが話を一層華やかにし、また悲劇を引き立たせる。船は沈む、そのことをあらかじめ知っている観客は、二人の恋の行方を不安に見守る。強いて言えば「悲劇的成就」を迎える結末は、だからこそ余韻を残す。しかし当時(今も?)よく騒がれたが、たとえ生きて米国に着いて結婚しても、生きてきた世界が違いすぎるし互いに気が強いから、まず長続きしなかっただろう。

時流に乗った作品の割には、二人は好演だったと素直に認めたい。美男美女という点を除いても、この映画での演技は特筆すべきといっていい。

後半は、船の沈没する様が延々描かれる。BGMもなく、人々が不安に怯える姿が映し出される光景の生々しさは、ドキュメンタリー映画の錯覚を受けるほどだ。人が次々に、凍える寒さの海に落ちて死んでいく。その様は観ていて救いのない悲壮感が漂ってくる。その果てに、ローズが蒼白の表情で笛を吹く場面がある。

1998年はタイタニックがひとつの巨大な文化だった。セリーヌ・ディオンの歌う主題歌「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」はそこら中で流れ、テレビはブームの凄さに特集を組んだ。その番組のひとつ、船の生存者のひとりで、後に米国でスポーツ選手として活躍した男性の言葉だった。「悲劇から心の傷を癒すには、忘れるしかない」。彼もまた、避難しながら、20世紀を代表する惨劇を海上の救命ボートの上から目の当たりにした。映画の最後で、年老いたローズが「救命に行ったボートは1隻だった。……たったの1隻よ」と語る場面がある。

我々は美男美女の恋愛劇にかこつけて、実際にあった沈没事故を一種の娯楽エンターテイメントとしてとらえるフシが少なからずあるが、実際の事故は1,000人を超す死者を出す大惨事だった。当時、日本でも「外国で大型客船の沈没が起きた」と報じられたという。

この映画について語るなら、世界的成功を収めた娯楽大作というだけでなく、元々はあまりに甚大な悲劇だったという気持ちも忘れずにいたい。

映画公開当時は、CGによる派手な映像の特殊効果を駆使して災害を描くパニック映画が米国で相次いでいて、この映画は当初、パニック映画の頂点と宣伝された。後に恋愛映画に広告方針を変えたようだが、結果として大成功を収めたといえよう。

冒頭に触れた通り、タイタニック号の沈没事故を描いた映画は今までも複数あった。おそらくこれが定番となるだろう。そのくらいこの作品はヒットした。名作のみが持つ、時代に選ばれた独特の存在感をこの映画は持っている。船の出港の場面その他、CGを使って撮影された場面も多いが、郷愁的な映像の数々を徹底して自然に見せた技術は本当に素晴らしい。身分違いの恋人同士が激しく愛し合うというありがちな話も分かりやすくていい。

3時間を超過する上映時間の長さがやや難だが、定番中の定番だが、テーマ曲も飽きたが、やはり素晴らしい映画だ。

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タイタニック
TITANIC
公開:2021年12月20日
更新:2022年07月16日